紫式部ダイアリー

三谷幸喜作品(映画)はよく見たがあまり覚えていない。
そもそも映画が苦手なのだ。
特にほうれんそうがないから起こる食い違いにはコメディであろうと恋愛であろうとイライラしてしまう。
母親はその入れ違いに楽しさを見いだし、同じ娘であるわたしもそうだろうとよく映画館に連れていかれ、すっかり映画が嫌いになってしまった。
大人になり、好きな映画も出来た。
気になるものはとりあえず見てみようと思った。

今日、WOWOWで放送された三谷幸喜脚本の長澤まさみ斉藤由貴出演の二人舞台を何気なく見ていたら牡蠣鍋そっちのけになっていた。

ここからネタバレ含みます。





紫式部長澤まさみ)と清少納言斉藤由貴)がバーで飲む話。
出ている人や書いているものは史実、舞台は現代という形。
ベテランの清少納言と若手売れっ子小説家の紫式部文学賞の審査員を勤め、翌日が授賞式。

先に飲んでいた清少納言と遅れてやってきた紫式部の会話からも探りあいや、ライバル心が伺える。
一足はやくインタビューの仕事を終えた清少納言と、仕事が多く長引いた紫式部
紫式部は「すみませ~ん~」「わたしって断れない性格で~」なんて言いながら掛け持ちしている仕事を自前のパソコンでぱちぱちとやりだす。
清少納言は大人の余裕で「そういう時期ってあるわよね~」なんて受け流しては見るものの明らかに聞いていない紫式部
飛ぶ鳥を落とす勢いの若手女流作家である紫式部は自由奔放だ。
清少納言に対しても、時に「(いいアイディアが思いついたから)黙って!!」と強い口調で言ってみせる。
明日のこともあるから早く切り上げようと少し清少納言が口にしても紫式部は「え?朝まで大丈夫ですよ?」というような感じ。

まずは文学賞の選考会で講評を述べる役を自分に譲って欲しいと清少納言紫式部に言うところから探りあいの空気からは一転。
世代交代を感じさせたくない清少納言と、特別興味は無いがOKを出してしまった紫式部
そこから紫式部清少納言に頼みごとをしたり、清少納言の作品にケチをつけるようなことを言う。
会話の中で紫式部の使っているパソコンでこつこつとエッセイになりそうな文章を作っていることを漏らす。
今日のことも勿論書きます、言い切る紫式部が席を立ったときにそっとパソコンを開く清少納言
けれどパソコンにはパスワードがかかっていて、見ることが出来ない。

二人はアルコールと共に二転三転していく会話の中で心のうちを語る。

清少納言は見た目が優れている紫式部がどうして文章を書くのか、と。
文章はそれしか持っていない人間が、それしか出来ないから書くのだ。
なのに貴方は美しく、スタイルもよく、才能もある。

紫式部は、誰もわたしの内面を見てくれない。
肌の荒れにはみんなが言葉をかけるのに、筆が荒れても誰も何も言いやしない。
それに自分よりも若い作家(和泉式部)が出てきたときわたしはどうしたらいいのか。

今ではなく千年後、作者が若いか、化粧が濃くなったか、男か女かそんなことは誰も気にも留めないが作品は残る。
そう、清少納言は諭す。

今回受賞作品はなしにしてしまおう!和泉式部なんて潰してしまおう!とグラスを合わせる。
吹っ切れたような様子の二人。

紫式部は唐突に××年物のお酒が好きだがもう製造が中止になってしまった、と話し出す。
そのボトルを持ってくるバーテンダー
上機嫌の紫式部はまた席を立つ。
ボトルを眺める清少納言
何かに気付き、パソコンを開く。
四桁のパスワードは、その酒の年代だった。

そこに書いてある文章を見て、清少納言は口を押さえる。
表情からは紫式部がどんな文章を書いているのかは読み取ることは出来ない。


結構はしょったのですが、こんな感じでした。
面白かった。

特にわたしは清少納言に感情移入をしました。
紫式部が悩みがある、と言ったとき「書けなくなるんじゃないかって思う気持ちは分かる、わたしもいつもそう思いながらずっと書いている」というのですが、紫式部は「あ、そういうんじゃないんです」と答えます。
清少納言は、書くことしかなくて、それが居場所で、楽しくもあり、でも若くて尚且つ才能のある世代が下からどんどん迫ってくる。
その心のざわざわとした気持ちや、けれど「嫉妬している」「認めたくない」気持ちを公にしたくないから大人に振る舞う。
けれど、それすらも紫式部に見抜かれてしまう。
「本当はうっとおしいと思っているんでしょ?でもそんなことをしたら器が小さいと思われるから、認めたふうをしている」。
そして、美しく才能のある紫式部に対する本音をぶちまけます。
上記した「文章はそれしか持っていない人間が、それしか出来ないから書くのだ。なのに貴方は美しく、スタイルもよく、才能もある。」というような台詞ですね。

正直、美しいんです、だから内面なんて見てもらえないんです!なんて悩みに共感できる人なんてあんまりいないと思うんですけど、長澤まさみが言うと、「ああ、確かにな・・・」と思わせてしまう感じがします。
尚且つ「内面見てもらえない~~それはわたしが美しいから・・・なんて・・・罪・・・」みたいな悪意も穢れもないナルシズムにも取れる雰囲気がまた良かったです。

WOWOWでは後にインタビューが入るんですけど、三谷幸喜さんがラストのシーンは本当の紫式部の日記はあるからそれを読んでもいいんだろうけれど、それがあの世界で書かれていたこととは限らない、という感じでした。
長澤まさみさんは「あーパスワード、わざと言ったんだと思いますよ、性格悪いって本人言ってるし」みたいな感じでした。
わざとパスワードを教えたのだとしたら、きっと本当の紫式部の日記と同じことを書いてあったのかな、とわたしは思います。
とり方は自由ですからね・・・わたしはそんな風に思いました。

なんとなく、誰が見てもどきっとする話なのかな、って思います。
特別何かものづくりをする人は清少納言の言葉にどきりとするんだろうけれど、今はちやほやされているけれどあと少ししたら自分はどうなってしまうんだろう?という言葉も人によっては感じるものがあるだろうし、逆に清少納言のように下の勢いに怯えたり、いつか何かに対する欲求や才が途絶えてしまうのじゃないかと時間が経てば経つほど深まっていく思考も分かるんですよね。

あと、余談なんですがわたしは長澤まさみが昔すごく嫌いで(理由はなんか喋り方が嫌いとかそういう感覚的なものと思い込みに近いやつ)でも今日見ていたら演技もそのあとのインタビューの据わっているような瞳と自分の立ち位置の分析するさばけた喋り方とか、華奢な体とか、感情のアップダウンの演技とか、とにかく好きになりました。
単純ですが。
美しい人が好きです、でも美しいと思うきっかけが無いとずぶずぶに好きにはなれないんだろうな。

明日誕生日なんで、二十歳最後の優雅なお風呂とか思ってたんですが全然これ書いていたら時間やばい。